製鉄プラント全体エネルギー最適化のための

階層型分散制御・最適化計画

 
関連する参加研究プロジェクト・研究会:
          日本鉄鋼協会調査研究会(主査,20102012年度)
          計測自動制御学会制御部門製鉄プラントエネルギー最適化調査研究会
(主査,20142016年度)
 
 

【背景】

昨今の超円高,海外鉄鋼メーカーの台頭が著しい中,国内鉄鋼業では,品質

とコストをバランスさせた国際的コスト競争力の強化が急務である.その為に

は世界最高水準の省エネ・低炭素・節電のレベルをさらに引き上げ,その能力

戦略的に用いる必要がある.従来目標である品質安定・生産量確保に加えて,

省エネ・低炭素・節電にもウェイトを置く操業を行うには,各工程での制御に

加え,複数工程が絡む複雑なエネルギ循環の「ダイナミクス」を理解(モデル

)し,製鉄所全体を俯瞰したエネルギ循環の活用(制御)が必要であり,それ

を踏まえた製鉄所内における各操業・制御方式の変革を目指さなければならな

い.制御工学の研究分野では現在,スマートグリッド等の大規模複雑系への理

論展開がホットな話題であり,上記課題解決のため,その基礎理論・技術を鉄

鋼業へ適用し発展させることが強く望まれる.

 

【目的】

以上を踏まえ,本研究の主目的を次の2点とする.

@  エネルギ循環に関する製鉄所規模の大規模複雑動的システムの振る舞いを

オンラインで高精度に推定するため,各ラインのミクロレベル,複数のラ

インが連携するメゾレベル,製鉄所全体のマクロレベルのモデルからな

る,複数の分解能を有する階層型モデリング技術を研究開発する.

A  @による階層型モデルを用い,各階層での制御と階層間で連携する機能か

らなる,製鉄所全体を最適化する階層型制御技術を研究開発する.

 

【大規模複雑システムに対応した階層型モデル】

圧延機の動特性は数msecオーダである一方,加熱炉では数分,生産計画は数

日〜数週間のオーダーである.空間スケールも含め,製鉄所内の各工程は超広

範囲の時空間スケールを有しているが,鉄鋼業において現在,その振る舞いを

適切な計算量で推定するモデルの導出法は確立されていない.本研究会では,

地球シミュレータ等の大規模数値計算の分野で近年注目されている多分解能モ

デルおよび特異摂動近似の手法を援用し,設備・工程・工場等を時空間スケー

ルに応じた分解能でサブシステム毎にモデル化し,それらがネットワーク結合

された階層型ネットワークドシステムとして扱うことで,高精度かつ実時間で

実行可能な計算量のモデルを導出する技術を研究開発する(右図参照).これに

より工場毎のエネルギ需要予測等の高精度化が期待できる.

 

 

 

製鉄プラント全体におけるエネルギ循環

 

 

 

時空間スケールに基づく階層型分散モデル

 

 

 

【大規模複雑システムに対応した階層型制御】

近年,一様な電力ネットワーク等に対する分散制御理論の進展が著しいが,製

鉄所は電力に加えて副生ガスや操業条件等,多岐にわたる制御量を含み,かつ

超広範囲の時空間スケールを持つ.本研究では分散制御を多分解能の観点で発

展させ,ミクロレベルの時空間スケールを持つ多数の制御系が,多岐にわたる

制御量に対し局所的に最適化を図りながら,一方でネットワークを通じてメ

ゾ・マクロスケールの最適化を同時達成する階層型制御技術(上図参照)を研究

開発する.

 

【研究推進体制】

委員全体を企業側委員と大学側委員から構成される複数のグループに分け,

各々個別工程を担当し,モデル化と省エネ・低炭素・節電を実現する最適制御

技術の研究開発を進める.次にグループ同士が連携して個別モデルを結合した

多分解能大規模ネットワークドモデルを構築し,系全体を制御可能な階層型制

御系を開発する.学術的にも新たな問題の発見や理論構築がもたらされるもの

と期待する.

 

【研究期間内での目標設定】

主目的の達成には長期の研究期間が必要と予想される.よって本研究期間内で

は,研究の進展に合わせて適宜,実プロセスへの適用を見据えた目標を定め遂

行する.

 

 

 

階層型分散制御系

 

 

階層型分散制御の効用

 

 

 

【実用化時のイメージ】

階層型モデル:ライン工場毎製鉄所全体のエネルギ需要予測が高精度化され

る.また各ラインにおける操作量や操業条件の変更に伴う製鉄所内各所でのエ

ネルギ需要,発電量,製品生産量等の変化が実時間で実行可能な計算量でシミ

ュレートでき,省エネ節電低炭素に向けたキメの細かい対応が可能になる.

階層型制御:各工場マクロな特性のみによるトップダウンの生産計画・スケ

ジューリングのみでは,総消費電力のピーク値抑制が達成不可能な場合でも

(上図()参照),ミクロレベルの精緻な制御とメゾ・マクロレベル(通板タイ

ミング,設備・工程毎のバランシング,発電量等の設定等)での最適化との連

携からなる階層型制御により,それが可能となる(上図()参照,相互連携に

より消費電力曲線(緑・紫)のマクロ&ミクロの振動位相が調整され,総消費電

(水色)のピーク値が抑制される).同様の原理により製鉄所全体としてエネ

ルギコストやCO排出量,購入電力を抑制する操業が可能となる.

【期待効果】 

各分解能での省エネ・節電・低炭素の実現:上工程(コークス炉,高炉,転炉

など)の操業状態の変動によって生じる副生ガスの流量変化は,それを加熱炉

などで再利用する下工程の操業や,結果的に製鉄所全体のエネルギ収支に大き

な影響を与えるが,本研究が目指す階層型制御が実現されれば,各種エネルギ

流量のミクロな制御と操業計画などのマクロな操作とが融合し,上工程で生じ

る変動分を吸収しながら製鉄所全体のエネルギ損失軽減が実現されるものと期

待される.

電力需給の最適なバランシング:太陽光や風力などの自然再生可能エネルギは

自然環境によって出力が大きく変動するが,製鉄所が有するエネルギ源と補完

することで有効活用される.特に副生ガス,排熱を利用したコジェネとの連携

により,最適な電力供給,電力会社からの買電と売電のバランシングが実現さ

れ,より省エネ・節電・低炭素な製鉄が可能となることが期待される.

 

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