階層型分散制御に基づく社会システム最適化
関連する参加研究プロジェクト・研究会:
● 産業競争力懇談会COCN・推進テーマ:自律型人工知能間の
挙動調整 (WGメンバー,2016年度)
● JST CREST・分散協調型エネルギー管理システム構築のための
理論及び基盤技術の創出と融合展開
(グループメンバー,2012年度〜)
1.階層型分散制御系アーキテクチャ (第59回自動制御連合講演会資料より抜粋) 近年,制御工学/制御理論の扱うべき対象は,従来の比較的小規模のものから,電力ネットワークに代表されるエネルギーの需給バランス,交通流ネットワーク,ビル空調システム,生体システム,社会システムなど,多数のサブシステムが,場合によっては階層的に内包されるような大規模システムへと広がってきた.このような大規模システムの制御における主たる課題の一つは,現実的な計算量による制御系設計手法と,運用時における計算時間および信号の通信量の軽減であり,それを実現する制御系の構造が階層分散型であると考える.階層分散型の制御系として本論文で考える状況は以下の通りである.まず,多数のローカルな制御対象が存在し,それぞれローカルに設計可能な制御器が接続されているものとする.このローカルな制御対象の群を,その出力を一つにまとめることによりアグリゲートして一つの集約システムとみなし,この集約システムに関するグローバルな制御目的を達成するための制御器を設計して接続する.ローカルな各制御対象には,グローバルな制御器による制御入力と,ローカルな制御器による制御入力の和を入力されるものとする.このような状況は,電力ネットワークにおける小口の供給家集団のアグリゲーション,複数のビルあるいは複数の空調ルームへの熱源の分配制御,細胞集団によるタンパク質濃度制御などに例が見いだせ,その適用範囲の広さを鑑み,この状況を考察する.さて本研究で注目する疑問は,このような階層分散型制御におけるローカルな制御器とグローバルな制御器との役割分担/トレードオフは何か?またそのトレードオフを上手く表現する理論はなにか,ということである.なお同様の議論が文献2) に見られる.具体的には,ローカルな制御器はローカルな制御目標を満たしながら,グローバルな制御目標に寄与すべく設計されなければならない.一方,グローバルな制御器は,ローカルな制御器を補いながら,グローバルな制御目標を達成すべく設計される必要がある.このように複数の制御目標が存在するため,これらはトレードオフの関係にあることが予想され,各制御器も,そのトレードオフの関係の元,役割分担をしなければならない.そこで本研究では,このトレードオフを表現するため,グローバルな制御器の想定する,アグリゲーション集団の従うべき規準モデルを導入する.下位層のローカルな制御器は,それが接続するローカルな制御対象と閉ループ系を構成し,それを規準モデルに近づけながら,一方でローカルな制御目標を達成することを考える.上位層のグローバルな制御器は,規準モデルに対してグローバルな制御目標を達成するよう設計する.ただし,下位層のローカルな閉ループ系と規準モデルには誤差が生じるため,上位層のグローバルな制御器はその誤差を考慮した制御系を設計しなければならない.このように,下位層のローカルな閉ループ系における「ローカルな制御性能」,下位層閉ループ系と上位層から与えられる規準モデルとの「モデル誤差」,上位層の「グローバルな制御性能」,の3 つを考えることにより,階層分散型制御系のトレードオフおよび役割分担を明らかにする.本研究ではさらに,モデル誤差に統計的ばらつきが仮定できる場合を考える.つまり,モデル誤差が各サブシステムごとに,ある意味で互いに独立であることを仮定し,アグリゲーション集団における「ならし効果」を数学的に特徴づける.またこの場合における,アグリゲートするサブシステムの個数と階層分散型制御系のトレードオフの関係を解明する. 2.制御理論に基づく分散最適化アルゴリズムの開発 (第13回SICE制御部門大会資料より抜粋)
近年,制御が取り扱うべき問題は拡大を続け,これ
までの比較的規模の小さな個別システム制御や機械的
な性能追求といった問題から,大規模システムの制御
や最適化,バイオシステムや社会システムの解析や設
計などへと大きく展開している.特に環境問題やエネ
ルギー問題の解決に,フィードバック制御のストラテ
ジを用いるという考えが受け入れられ始め,新たな研
究領域ができつつある.具体例としてスマートグリッ
ドへのフィードバック制御適用に関して盛んに研究さ
れている.そこでは太陽光・風力発電といった自然再
生エネルギーの積極的な利用が想定されているが,そ
れらは系統を乱す外乱源となり,大規模な電力ネット
ワーク全体の状態を,如何に安定に維持するのか,と
いったことが主要な課題となっている.このような大
規模系の制御・最適化で解決すべき主たる課題は,い
かにして実現可能な計算量・計算時間で制御・最適化
を実現するのかということであり,そのためには制御
装置あるいはアルゴリズムの分散化・階層化の手法や
技術が不可欠であると考えられている.これを実現す
るための一つのアイデアが,分散最適化の適用である.
最適化問題を解くためのアルゴリズムの一つにUzawa
の主双対アルゴリズムというものが知られてる.これ
は,主問題と双対問題における最適化変数の暫定値を,
繰り返し計算によって同時に更新し,かつその暫定値
をそれぞれの問題で互いに利用する,というものであ
る.適切な条件下において,アルゴリズムの大域的収
束性が保証され,その収束点が最適解となる.ここで元
の最適化問題がある特別なクラスに属するならば,上
記のUzawa
のアルゴリズムは独立性の高い複数の最適
化問題に分解され,その結果,分散最適化アルゴリズ
ムとなる.我々が解くべき大規模な実システムの最適
化問題が,ここで想定するクラスに属するならば,こ
の分散最適化アルゴリズムが適用できる.
そのような研究の例が,電力ネットワークにおける,
電力単価の価格づけを用いた最適電力配分問題である
[4,
7, 8].そこでは電力を消費する需要家および生成す
る供給家が市場に参加しており,それぞれが自己の評
価関数の最適化を利己的に追求するというメカニズム
を仮定する.その上で電力価格を上手くコントロール
することにより(このような考え方は一般にデマンド
レスポンスと呼ばれる),市場全体の評価関数を最適化
する.そしてこの仕組みが,Uzawa
のアルゴリズムに
よって解釈でき,また最適解へ行き着くことが保証さ
れる.
これに関して我々の研究グループでは最近,Uzawa
のアルゴリズムの安定性を受動性により証明すること
が可能であることを示した[7,
8].さらにその事実を用
いて,制御論的な観点で,Uzawa
のアルゴリズムの一
般化が可能であることを示した[7,
8].このように一般
化されたアルゴリズムの適用先は,非常に広いものと
考えられている.例えば分散アルゴリズムの最適解へ
の収束の高速化,あるいは対象とする実システム固有
の物理的ダイナミクスと従来の最適化アルゴリズムを
統合した,ハイブリッド型分散最適化アルゴリズムの
提案などである.
以上を背景に本研究では,以下,筆者の研究グルー
プの最近の結果であるUzawa
のアルゴリズムの一般化
[7, 8] と,その応用例[3] について概説する.